大判例

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大阪高等裁判所 昭和42年(ネ)1338号 判決 1970年11月17日

控訴人

裵基煥

代理人

堀弘二

他二名

被控訴人

日下喜市

代理人

松本健男

主文

一、原判決を取消す。

二、被控訴人の第一次、第二次請求を棄却する。

(被控訴人の第三次請求につき)

三、控訴人は被控訴人に対し

(1)大阪市大淀区豊崎東通一丁目五二番地の七、宅地、154.0495平方メートル(46坪6合)を同地上にある、原判決添付図面に記載の(A)軽量鉄骨造亜鉢鋼板葺二階建建物一棟および(B)木造亜鉢鋼板葺平家建建物を収去して明渡し、

(2)昭和四四年七月二二日以降右土地明渡済みに至るまで一ケ月三二、三八四円の割合による金員を支払え。

四、訴訟費用は第一、二審を通じ、五分し、その一を被控訴人、その余を控訴人の負担とする。

五、この判決は前記三の(1)の建物収去、土地明渡については被控訴人において一五〇万円の担保を供するとき、三の(2)の金員支払については一〇万円の担保を供するとき、それぞれ仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一、被控訴人が本件土地を所有していること、控訴人が昭和三九年九月ごろより本件土地を占有使用していること、同地上に被控訴人主張の原判決添付図面記載、(A)、(B)の建物を所有していることは当事者間に争いがない。

二、<証拠略>を総合すると次の事実が認められる。

寺嶋満は従兄弟にあたる岩本長重より資金の援助をえて、中古自動車の解体、修理販売の仕事をしていたが、道路の一部を利用してその様な商売をすることにつき、市よりも苦情がでて、空地を探していたところ、昭和三八年春ごろ、右岩本が叔父に当る被控訴人に頼んだ結果、同人より、その居宅の裏にある本件土地を、息子が学校を出て嫁を貰う様になつつたら家を建てるため入用だが、当分の間三、四年位なら建物を建てるのは困るが、自動車置場や解体作業場になら使つてもよいとの承諾をえ、岩本は、よい車を入れた場合はシートをかけるから雨を防ぐ屋根はなくてもよいが、入口だけ作らせてくれと頼み、それの了解もえた。寺島は他方、大淀区豊島町で自動車の解体をしていたとき知り合つた控訴人からも右商売をするについて資金の援助を受け、共同で前記商売をする話ができたので、同年夏本件土地内を、大きな石を片付けたり、除草して整地し、トタン塀をして入口をつけたが、右整地に当つては控訴人の方からも数人手伝いに来た。右整地後、寺嶋は控訴人とは共同で右土地を使つて前記商売をするので、連れ立つて被控訴人の家へ挨拶に行つたが、被控訴人よりは前記岩本に話したのと同じ話で、賃料についての取り決めはなかつた。その後本件土地を使つて前記商売を始めたが、三ケ月位したころ、控訴人は原判決添付図面(B)の部分に、柱を立て、屋根はトタン葺きで、床は張つてない、バラックの建物を建てた。寺嶋は前記のとおり、岩本が被控訴人から借りる約束をしてくれた時の条件に建物は建てないということであつたので、控訴人に「こんな物を建てたら困る」と言つたところ、控訴人は「こんなもの一日でつぶせるやないか、たいしたことはない」と言つて建ててしまつた。その後間もなく右バラック建の北側の道路に接するところにガラス窓のついた事務室を造つた。被控訴人は右バラックを建てているのを知つたが、自動車の解体作業をしたり、自動車置場に使うのに、雨露をしのぐ程度のものならよいと考えて、敢えて撤去を求めることもせず、黙認した。控訴人は、右土地を使わせて貰うについて、毎月ではないが、一回に五、〇〇〇円宛控訴人方の従業員をして持参させたり、寺嶋を介したりして被控訴人方に届け、二、八〇〇円位の着物を届けたこともあつた。被控訴人は右金員を、賃料の取りきめはしてなかつたが、土地を使わして貰つていることに対する地代やお礼として持つて来てるのだろうと思つて受取つていた。控訴人が昭和三九年一〇月より約二ケ月賍物故買の嫌疑で警察に留置されたことも原因して右金員の届けが暫く途絶え、同年一二月末に従業員矢根信夫をして五、〇〇〇円と酒を届けさせたところ、被控訴人の方で「こういうものは受け取れない」と言つて受取らなかつたので、更に寺嶋に、受取つて貰う様とりなし方を依頼して右金員を託した。控訴人は翌昭和四〇年一月以後の分は毎月五、〇〇〇円の割で供託している。被控訴人は本件以外に土地や家を賃貸しているのが多数あるが、そのすべての場合に賃貸借契約書を取り交しているわけではないが、通帳は必ず作つており、また被控訴人方には控帳を作り、入金状況を記載している。しかし本件の場合には控訴人に対する通帳は作られておらず、被控訴人方の控帳にもその記載がない。控訴人が警察に留置された頃より寺嶋は控訴人の巻き添えを食つたらいけないという気持や控訴人との利益分配についての意見のくい違いから仲間割れし、本件土地を使つての前記事業より手を引き、以後は控訴人のみが本件土地を占有使用している。

以上の事実が認められる。<証拠略>中右認定に反する部分は前記証拠に照らし、採用できない。右認定の事実によれば、本件土地の賃貸関係は、まず被控訴人と岩本を介して寺嶋との間に、自動車置場兼解体作業場として、当分の間使用するという約束で初まり、その後昭和三八年八月ごろより控訴人も加わつてこれを占有使用し始め、その後控訴人がバラックを建てたことも雨露をしのぐ程度のものなら、当初の使用目的の範囲内にあるものとして被控訴人においては黙認し、一回五、〇〇〇円宛の金を受領する状態が継続するうちに、暗黙のうちに「賃料一ケ月五、〇〇〇円、使用目的、自動車置場兼解体修理作業場として暫時使用」という内容の一時使用の賃貸借契約が被控訴人との間に成立したものとみるのが相当である。

三、控訴人は本件訴状は不法占有を原因とする明渡請求であるからこれをもつて解約の申入と解することはできないと主張する。

本件訴状の記載によれば、その請求原因は本件土地を不法占有している控訴人に対し所有権に基づき明渡を求めるものであり本件土地についての既存の契約を債務不履行を原因として解除するとか、解約するという意味のことは全然書かれていない。したがつて、右訴状の送達をもつて解約の申入と解することは困難である(昭和二六年一一月二七日第三小法廷判決、民集五巻一二号七四八頁。昭和二八年一〇月二三日第二小法廷判決、民集七巻一〇号一一一四頁。昭和三六年一一月七日第三小法廷判決、民集一五巻一〇号二四一五頁等はいずれも事案の内容が本件と異なり、これに依拠し難い)。

四、昭和四一年一〇月ごろ、原判決添付図面中(A)部分が軽量鉄骨亜鉢鋼板葺二階建居宅兼工場に改造されたことは当事者間に争いがない。 前記認定のとおり被控訴人は本件土地を自動車置場や解体作業場として使うために貸したのであるのに、被控訴人の承諾をえることなく、本訴係属中において前記の如き軽量鉄骨亜鉛鋼板葺二階建居宅兼工場を造つたことは本件土地賃貸借の継続を著しく困難ならしめる不信行為として催告なしに賃貸借契約を解除することができるものというべきである(昭和三一年六月二六日第三小法廷判決、民集一〇巻六号七三〇頁参照)。右無断改築を理由に契約を解除する旨を記載した昭和四四年七月二一日付準備書面が同日控訴代理人に交付されたことは本件記録上明らかなので、本件土地についての前記賃貸借契約は同日限り解除されたものというべきである。

当審証人Hは「私が大淀警察署に勤務していた昭和四一年一一月ごろ被控訴人より自分の土地に不法に鉄骨の建物を建てられて困つているという訴を受け、現地を見に行つたが、工事請負人だけしかいなかつたので、施主に警察署に来る様に言つて帰つたところ、その日のうちに控訴人、被控訴人が揃つて警察署に出頭し、不法建築の件は示談解決しました。手数かけて済みませんでした、と述べた」旨証言し、当審における控訴本人もこれに符号する供述をしているが、既に同年一月より本件バラックの収去と土地の明渡を求めて訴訟中なのに控訴人より被控訴人に何ら見返りの利益を与えることもなく急に示談解決したというのは甚だ不自然であり、被控訴人が係警察官に述べたところの意味は、被控訴人において控訴人を刑事事件の被疑者として告訴し、刑事責任を追求することはしないという程の意味を述べたに過ぎないものと認められる。

したがつて、右証言、供述をもつて被控訴人が右軽量鉄骨造亜鉛鋼板葺二階建建物の建築を承諾したものとみるわけには行かない。

五、原審における鑑定人Tの鑑定の結果によると、本件土地の賃料相当額は昭和四二年四月一日現在三二、三八四円であることが認められる。

六、よつて被控訴人の本訴請求中、不法占有を原因とする建物収去土地明渡請求ならびに昭和四〇年一月一日以降の賃料相当損害金の支払を求める第一次請求および訴状送達をもつてする解約申入による賃貸借終了を原因とする、建物収去、土地明渡請求ならびに賃貸借終了の翌日である昭和四二年三月二〇日以降の賃料相当の損害金の支払を求める第二次請求は認められないが、無断改築を理由とする契約解除に基づく建物収去土地明渡の請求ならびに解除の翌日である昭和四四年七月二二日以降右明渡済みまで一ケ月三二、三八四円の割合による賃料相当の損害金の支払を求める第三次請求は正当として認容すべきである。

被控訴人の第一次請求について、これと見解を異にする原判決は取消して右請求を棄却し、当審で追加された第二次請求も失当として棄却するが、第三次請求は正当として認容し、訴訟費用の負担、仮執行の宣言につき、それぞれ民訴法九六条、八九条、九二条、一九六条を適用し、主文のとおり判決する。(入江菊之助 中村三郎 道下徹)

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